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2014年7月3日木曜日

和風な苗字で呼ぶ白人

 ごく最近まで、私は綴りや発音を知っている人が殆どいない珍しい姓を名乗っていました。私は英語を話す人が、私が言った姓のスペルを間違え、名刺に書かれた姓を誤って発音することに慣れていました。

 このことは私を大変苛立たせますが、彼等が何故間違えるのかも理解していました。漢字表記の幾つかの名前がそうであるように、名前には不規則で慣習的な規則があり、名前のスペルと発音を前もって教えてもらえないと、英語のネイティブ・スピーカーであっても名前を正しく発音し、書くことが不可能なことがしばしばあります。

Andrew Havill
イギリス俳優のアンドリュー・ハヴィル
『マイケル・スミス』のようなありふれた名前以外に規則が存在しないのは、アメリカが英語以外の言語、時にはラテン文字以外の語源に由来した名前が多い移民の国だからです。彼等はアメリカに移住する際、英語にはない文字や音を英語形式に変換し、外国語の名前を英語に適応しなければなりません。時には名前を縮めたり、一般的な英語の名前に近い名前に変えたりします。私の先祖はおそらく中欧の出身です。彼等がイギリスに移住した際、綴りと発音を英国式にしました。そして私のイギリスの祖父母がアメリカに移住した際に発音と綴りをまた少し変更してより『現代アメリカ』式のスペルと発音に変えました。私は元の姓のスペル(英語にはない文字が使用されています)や発音を知りません。というのも元の姓の音が英語には存在しないからです。アメリカにいる私の親族はイギリス側の親戚が発音する名前は不自然だと思っています。そしてイギリスの親戚達は私達が馬鹿なアメリカ人になり、大西洋を渡った際に正しい発音を忘れてしまった、だから私達が発音する名前がおかしいと思っています。

 日本人になる際、日本人の赤ちゃんに命名する際に適用される規則に従っていれば、新しい戸籍謄本のために好きな名前を選ぶことが出来ます。平仮名と漢字を自由に混ぜることができますが、ラテン文字は使用できません。

 私はアメリカ人にとって移住し、名前を修正・変更することは、今やアメリカの伝統だと思っていたので、日本の名前『イノウエ』を選ぶことに抵抗はありませんでした。

井上は集まれの中で、いっぱい居る
今のところ、わたしは日本でこの名前を名乗ることを心から楽しんでいます。私が電話やホテルやレストランの従業員に名前と言うと、綴りや読み方を訊いてくる人は誰もいません。そして誰ひとりもう少しゆっくり言ってもらえますかと訊き返してきませんし、名前を忘れる人もいません。ありふれた名前は仕事でも好都合です。長くて珍しい名前が書かれた名刺を渡されると、私は彼等の名前を読み間違えて怒らせはしないかと心配になります。

 私の新しい名字が日本中どこでも見られるのは奇妙で刺激的です。在外邦人でも、病院でもレストランでも小さなお店でも、大企業や英雄、有名な歴史的人物、政治家(日本人とアメリカ人)、同僚(一人以上)、著名人、AV女優、犯罪者に至るまで、あらゆるところにこの名前が存在します。私の前の姓は余りにも珍しく、親戚以外で同じ姓を持つ人に会ったことがありませんでした。同じ姓の人間がいるかグーグルで調べた事があります(同じ姓を持つ人間が世界中に250人存在し、その70%以上がイギリスにいるようです)。

 ただし、ありふれた名前にも欠点はあります。昔の名前はとても珍しかったので、しばしばインターネットのユーザーIDとして使うことが出来ました。というのもこの名前をユーザーIDに選んだ人が誰もいなかったからです。『イノウエ』という名前をハンドルネームに使用することは英語サイトであっても不可能です。このため、私は今でも昔の名前を便利な『一意の識別名』としてサイト上の登録に使用しています。